赤羽ブルーグラス紀行
/ロバート対中は現役だった。

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うだるような暑さが続く7月31日の土曜日、花
火客と思われる浴衣姿のレデイが目立つ池袋駅で
埼京線に乗り換えてガタゴトと15分、赤羽で降り
た。待合せの南口改札前に着くとすでに写真家の
小森谷信治、そして山口さとしと山口徹の兄弟が
丸くて大きな柱の前で待っていた。
 小森谷は赤の半ズボンにスニーカーという最新
のファッションで決めている。ポケットがいっぱ
いついたチョッキをはおって風格を出している。
動物訓練士に見えないところはさすがだ。
 山口徹は神戸から駆けつけていた。「いまドブ
ロとバンジョーとペダルスチールが弾けるバンド
にいる」と静かに近況を語ってくれた。タイプの
違う三つのバンドを掛持ちして楽しんでいるとい
い、ときにはホテル等で営業のセッションもこな
すというスーパーマンぶりである。しかも本業は
社長をやっているからなおさらスーパー・ブルー
グラス的生活だ。もしも「人生は楽しくあるもの」
などとこの人にいわれたら、迷える私なんか1秒
後には「間違いございません」とひれ伏すほかに
テはないのだ。さすがの王道だ。
 待合せ時間の19時にはまだ15分ほどの余裕があ
った。
 
*赤羽にもブルーグラスがあったのだ 

 今日はここに合計13名の妖しい経歴を持つ音楽
仲間が集結して、かつて60年代に大活躍したブル
ーグラス音楽の先駆者、そして巨匠の名にふさわ
しいロバート&ジェリーの「対中ブラザース」の
ステージを見に行く計画なのだった。
 しかし、あまりにも突然の情報だったため、真
実かどうかの不確実性が情報そのものを危うくし
てしまい、参加人数に現れてしまった。本当なら
5,000人くらいのファンがたちどころに集まって
この赤羽駅を占拠しても不思議ではないのだ。
 6月にしては暑い日が続いていたろ「赤羽のウ
ッデイに対中ブラザース生出演!」という1本の
メールが届いた。発信元はデザイナーの須貝重太
だった。須貝もロバート&ジェリーにトラディシ
ョナルミュージックを教わったくちである。メー
ルには時効寸前の犯人をやっと見つけたような鬼
気せまる興奮と迫力が行間から匂った。
 しかしあまりにも唐突ではないか。ぷっつり20
数年も消息の分からなかったロバート&ジェリー
が、突然降って涌いたように現れるものだろうか。
それに赤羽のウッデイといったってかなり妖しい。
東京のブルーグラスは青草があった駒込から、青
山、銀座と中心が移ってきているが、赤羽駅前と
は初耳だ。この情報、本物だろうか。

*死亡説まで流れたウ・ワ・サ 

 ある情報通は「対中ブラザースと言ったって他
に何人もいるんだよ」と危ない事実を披露する。
ロバート&ジェリー以外にその弟たちだけでで構
成された対中ブラザースだってあるんだからとい
うのだ。「いつだったか私は知らないでそれを見
てしまいました」と苦笑いしていた。
 それに10年くらい前には死亡説まで流されてい
た。ロバートかジェリーかどちらかが病気で亡く
なったと妙に明解な噂がファンの間を駆け抜けた
ことがあった。誰かが流したのだろうが、私はそ
の噂を聞いたとき半ば信じたような記憶がある。
 さらに、東京にいられず沖縄・フィリピンあた
りを巡演しているともっともらしいことをいう人
もいた。ロバートさんだからかえってそういう基
地関係の方が生き生きと活動出来るんじゃないか
というのである。何かの事情で東京にいることが
厳しい場合、当然むかし鳴らした米軍基地まわり
へ戻ったと考えられるけどねと、見て来たように
解説してくれた。
 大物ゆえの噂のひとり歩きである。

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